読書:戦略「脳」を鍛える

戦略「脳」を鍛える

戦略「脳」を鍛える

 

評価:5.0点(5点満点)

BCG日本代表の御立さんによる戦略発想に関する書籍。この手の本の中でベストな一冊だと思う。バイブルとして長く手元に置いておこうと思う。「勝てる戦略」をつくるための「インサイト」をどのように構築するかという点について述べられている。第4章で取り上げられているケース(投資ファンドの代表として不動産分野で成長する戦略を考える)は特に秀逸。実際に戦略を考えるプロセスを、わかりやすくかつ後講釈ぽくなく解説している。

 

[動機]

コンサルティング・ファームへの転職を考えていた時に勧められたため。もっと早く読んでおきたかった一冊。

 

[サマリ]

 勝てる戦略を立てるためには、定石を知ることと「インサイト」が必要。定石を知るうえではコンセプトワードで分類したパターン認識が役立つ。インサイトを磨くには種類の異なるレンズを意識的に使えるように訓練することが大切。

 

[引用(太字はドルミです)]

[p.p.1-3]  その経験を通して強く感じていることは、「戦略論を勉強するだけでは、『勝てる戦略』はできない」ということだ。さらにいうと、「勝てる戦略」をつくるためにはアカデミックな勉強だけではなく、「ある種の『頭の使い方』を身につける訓練が不可欠」なのである。戦略論自体の意義を否定しているのではない。(中略)したがって、その枠組みを「定石」として学ぶことは「イロハのイ」となる。(中略)囲碁・将棋の定石と同様、経営戦略も発見・模倣・陳腐化・イノベーションを繰り返すのがその特徴であり、「定石を超えた戦い方のイノベーション」こそが、戦略の本質なのである。(中略)経営の場でも、プロ同士が全力で戦う自由市場においては、戦略論という定石を当然知ったうえで、新たな戦い方をつくり上げる「プラスアルファの能力」を身につけた者だけが、自らを差別化し、競合優位に立つことができる。この「プラスアルファの能力」を、我々は「インサイト(Insight)」と呼んでいる。BCG流の「インサイト」をあえて意訳するならば、「勝てる戦略の構築に必要な"頭の使い方"、ならびにその結果として得られる"ユニークな視座"」という感じになろうか。

 

[p.p.44-46]  戦略コンサルタントが一人前になっていくうえで最初に必要なのがパターン認識である。パターンを認識できると、パターンをさまざまな角度からとらえたり、いくつかのパターンを組み合わせたりすることで状況を端的に把握することができ、より速く適した戦略の仮説が立てられるようになる。この力を高めるためには、物事の局面ごとに、「これはこういうことだ」とパターン化するクセをつけ、それを記憶していくことが有効だ。そしてそのパターンを頭に蓄積し、必要なときに蓄積されたパターンを使って新しい戦略を構想する。パターン認識力が身につくと、(中略)すなわち思考のスピードが上がるのだ。(中略)そのなかで得たコツは、コンセプトワードを記憶の引き出しとして用いることだ。(中略)実際には、コンセプトワードごとに、具体的な事例が引き出しの奥に記憶されているのだが、記憶をたぐったり、パターン化された定石を組み合わせて思考していく際には、コンセプトワードレベルで考える。この方が記憶が容易だったり、思考のスピードアップが可能だったりするからだ。

必須コンセプトワード

  • コスト系:スケールカーブ、エクスペリアンス・ァーブ(経験曲線)、コストビヘイビア(固定費・変動費、スケール/スコープ)
  • 顧客系:セグメンテーション、スイッチング・コスト、ロイヤリティ、ブランド
  • 構造系:V字カーブ、アドバンテージ・マトリクス、デコンストラクション
  • 競争パターン系:ファースト・ムーバー・アドバンテージ、プリエンプティブ・アタック
  • 組織能力系:タイムベース戦略、組織学習、ナレッジマネジメント

 

 [p.p.51-52]  ・スイッチングコスト、ロイヤリティ、ブランド

これらは同種の事象を異なった視点で見たコンセプトとして、まとめて記憶しておいたほうがよい。顧客が自社の商品から他社品に乗り換える(スイッチングする)コストを高めることで、顧客のロイヤリティが高まる。ロイヤリティを高める典型的な手法がブランド構築、というように相互関係にあるコンセプト群だ。スイッチングコストを高めることで、ロイヤリティの高い長期顧客が増えれば、多額のマーケティングコストをかけて新規顧客を集めるよりも効率がよい。エアラインのマイレージや百貨店のポイントカードがこれにあたる。一方、こういった金銭的なスイッチングコストではなく、心理的なスイッチングコストを高めるやり方の最たるもの、それがブランドロイヤリティだ。一世を風靡したシャネラー(全身シャネルで身を固める女性ユーザー)たちは、シャネルを身にまとう心理的満足感が大きかったからこそ、シャネルを買い続けたわけである。

 

[pp.61-63]  パターン認識の例として、伊藤園のホットPETウォーマーという事例を見てみよう。(中略)ホット・ペットボトル百万ケース分に相当する二万台のウォーマーを製造し、コンビニに設置してもらう努力をした結果、セブンイレブン以外のコンビニに置いてもらうことに成功したのである。このウォーマーにはもちろん伊藤園の名前が入っており、基本的には伊藤園のホット・ペットボトルを入れることになっている。当然ながら他の飲料メーカーもウォーマーの中身を差し替えようと努力するが、伊藤園は他社と異なり、3000人のルートセールス部隊を有していて、彼らがコンビニを定期的にまわり、伊藤園の商品をウォーマーに並べる活動ができるという仕掛けだ。この話を雑誌で読んだときに、私がまず考えたのは、「あ、これは典型的なファースト・ムーバー・アドバンテージだな」ということだ。コンビニの販売スペースは非常に限られているから、そのスペースを先に押さえ、自社の商品を確実に置いてもらうことは大変重要である。さらに伊藤園ではルートセールス部隊が定期的に店舗をまわる。これが押さえとなり、いったん確保したコンビニの販売スペースは他社に奪われにくい。ファースト・ムーバー・アドバンテージというパターンは、もともと頭の中にストックされているのだが、この伊藤園の記事をよむことで、その具体例がさらに一つ豊かになった。この結果、たとえば、店舗の販売スペースを抑える方法と確保したスペースをルーとセールスで維持する方法を、他の業界で行えないだろうかと考えることができるようになる。たとえば花粉症の人のための「アルガード」という商品がある。これには(中略)様々なバリエーションがある。そこで商品をひとまとめにしてアルガードというブランドを前面に出し、ホットPETウォーマーの場合と同様に、アルガードの様々な商品を一同に並べるための販売スペースをドラッグストアで押さえられないかと考えてみる。次に、もし販売スペースをうまく押さえられたとしても、競争相手も販売スペースの獲得を狙って戦略を立ててくるから、スペースを維持するためにはルートセールスで各店舗を押さえていくしかないと考える。すると実際にこういった戦略が成り立ちそうなのは、ドラッグストアに商品をおろしている製薬会社のなかで自社の営業がルートセールスを行っているエスエス製薬や大正製薬ではないか、と仮説を膨らませ、両社やその競合にとっての具体的な戦略オプションを考えていく。あえて、単純な例を挙げてみたが、いったん定石をパターン認識貸し手コンセプトワードでインデックスづけをしておけば、戦略策定能力がどんどん高まっていくということを覚えておいてほしい。頭の中に、ファーストー・ムーバー・アドバンテージというパターンとコンセプトワードが入っていなければ、伊藤園の記事を読んでもすぐに忘れてしまい、自分の戦略立案に活用するのは難しいだろう。いろいろな雑誌や新聞の記事を読んでも、単に「おもしろい」と思って流してしまうのか、自らのパターン認識をより豊かにしていくのかで、大きな差がついていくのだ。

 

 [p.p.85-86]  「レンズ」とはユニークな戦略を具現化するために必要な「モノの見方」である。人はだれでも知らず知らずのうちに決まったレンズをかけてモノを見るクセがついている。自分の得意な「モノの見方」で思考してしまうのだ。モノを見るレンズは一つではない。(中略)レンズをかけかえることで、今まで見えていなかったさまざまな事象がはっきりと見えてくる。自分の使い慣れたレンズだけではなく、他のレンズを意識的に使えるようになるのが、インサイトを身につける近道なのだ。

ユニークな視点をもたらすレンズ(合計九種類)

  • 拡散:ホワイトスペースを活用する、バリューチェーンを広げる、進化論で考える
  • フォーカス:ユーザーになりきる、テコを効かせる、ツボを押さえる
  • ヒネリ:逆バリする、特異点を探す、アナロジーで考える

 

[p.p.155]

ユニークな戦略 = 定石 + インサイト

        = 定石 + (スピード + レンズ)

        = 戦略のエッセンス

           + (パターン認識 + グラフ発想) x シャドウボクシング

           + ("拡散レンズ" + "フォーカスレンズ" + "ヒネリ"レンズ) 

 

戦略「脳」を鍛える

戦略「脳」を鍛える